事業承継は経営者にとって頭の痛い問題です。少子化と職業選択の自由を尊重する風潮の中で、子どもや親族への承継をためらう経営者も少なくありません。また、後継者がいたとしても、事業承継時には自社株式や事業用資産の買い取りや相続税の納付のため、多額の資金が必要になる場合があります。スムーズなバトンタッチに向けて、事業承継に必要とされる資金について知っておきましょう。
事業承継のパターン別、必要資金
事業承継のパターン別に、想定される必要資金について見ていきましょう。
<親族内承継の場合>
・相続などで分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金
・相続や贈与によって自社株式や事業用資産を取得した場合、相続税や贈与税を納税するための資金
・後継者や他の相続人等から会社が自社株式や事業用資産を買い取るための資金
<親族外承継(MBOやM&Aなど)>
・株式や事業を取得するための資金
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後継者の税負担を減らす事業承継税制
親族内承継の際、頭痛の種となるのが相続税や贈与税でしょう。中小企業であっても、業績が良い企業などは、自社株式の評価額が思いのほか高くなることがあります。
2013年の税制改正によって、遺産にかかる基礎控除額が引き下げられたため、相続税の対象者が増加しています。実際、経済産業省の「2019年版中小企業白書」によると、後継者に全部の事業用資産を引き継いでいない理由として、「贈与税の負担が大きい」と回答した割合が38.2%でトップとなっています(親族内承継)。
政府は事業承継をスムーズに進めるため、事業承継税制を何度か改正したものの利用者が増えなかったことから2018年に税制改正を行い、2027年までと期限を設けた「特別措置」をスタートさせました。注目すべき変更点として、以下2点が挙げられます。
|
特別措置(2018年より) |
一般措置(これまで) |
対象 |
全株式 |
総株式数の2/3まで |
納税猶予割合 |
100% |
贈与:100% 相続:80% |
上記以外にも変更になった部分があり、これまでと比べて事業承継に関する税金支払いのリスクを大幅に低減し、事業継承がしやすくなっています。活用すべき制度と言えるでしょう。
政府系金融機関からの資金調達を活用する
事業承継にかかる資金調達方法としては、民間金融機関からの融資のほかに、政府系金融機関からの低利融資という選択肢もあります。日本政策金融公庫では、以下の事業承継目的の融資には特別利率を適用しています。
1.相続等による株式等の分散を防止するため自社株式等の取得を行う場合
2.後継者個人が自社株式や事業用資産の買い取り、相続税や贈与税の納税をする場合
3.親族外承継を行う場合、事業の買取資金を調達するための融資
親族内承継だけでなく、近年増えている事業譲渡や企業買収などM&Aによる事業承継に対しても、低利融資が用意されている点に注目です。2015年にみずほ総合研究所株式会社が行った調査によると直近10年における従業員や社外の第三者といった親族外承継は約6割超に達しています。また、商工組合中央金庫も、独自に事業承継のための融資制度を設けています。
さらに、2009年に制定された経営承継円滑化法に基づく認定を受けた中小企業は、信用保証協会の保証を活用することが可能です。事業承継に関する資金を金融機関から借り入れる場合、通常の保証枠とは別枠(普通保険:2億円、無担保保険:8,000万円、特別小口保険:1,250万円)が用意されています。
こうした信用保証も資金調達手段として活用したいところです。加えて中小企業庁では、優れた技術を持ちながら事業承継問題で廃業を余儀なくされている企業などを支援するために、中小企業基盤整備機構によるファンド出資事業に取り組んでいます。事業承継に向けた資金調達にはぜひ、こうした政府系金融機関からの支援を活用すべきです。
事業承継は数年がかり、早めに必要資金の目安を
2015年に株式会社帝国データバンクが行った「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」によると、直近の経営者の平均引退年齢は、中規模企業で67.7歳、小規模事業者では70.5歳。2020年ごろには、団塊世代の経営者が引退時期を迎えると予測されています。事業承継は、数年がかりの事業です。また、ここまで見てきたように、親族内承継、第三者承継のいずれの手段を選択しても、ある程度の資金がかかります。いざというときに慌てないためにも、日ごろから事業承継に向けて資金調達のめぼしをつけておくべきでしょう。
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