経営者の関心事
2020.3.30

経営者が事業承継を成功させるための3大テーマとは

(画像=fongbeerredhot/Shutterstock.com)
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事業承継を近々進めたいという中小企業経営者が、承継の全体像をつかむための3大テーマを解説します。すでに事業承継を着手しているけれど上手くいっていない人にも参考になる内容です。
 
〈目次〉

1.事業承継の3つの仕組み:経営権・資産・知的資産

(画像=Jirsak/Shutterstock.com)
まずは、事業承継の仕組みを確認しましょう。事業承継の成功は、現経営者から後継者に3つの要素(経営権・資産・知的資産)を引き継ぐことで実現します。

逆に言えば、このうちひとつでも不足すれば、事業承継後のトラブルが発生しやすくなります。そのため、現経営者は「3つの要素をしっかり引き継げているか」を常に意識する必要があります。それぞれの要素の内容を見ていきましょう。

1-1.事業承継の仕組み 1:人(経営権)の承継とは?

人(経営権)の承継とは「経営者にふさわしい人を選び、その人物に経営権を引き継ぐこと」です。大きな流れは次の4つのステップから構成されます。

[ステップ1:後継者候補を選ぶ]

事業承継のファースト・ステップといえる大切な部分です。自社を取り巻く状況を整理した上で、会社の将来を見据えて誰に承継するかを決定します。後継者候補を選んだ後には、先方の意思を確認することも大切です。承継の選択肢には「親族内・親族外・外部承継」という3つの選択肢があり、それぞれでメリット・デメリットが変わってきます(くわしくは「2.事業承継の選択肢」で解説)。

[ステップ2:後継者と対話する]

事業承継とは、現経営者と後継者の二人三脚で進めていくものであり、対話が欠かせません。その内容は、経営理念や経営者の想い、後継者の不安や課題など多岐にわたります。そのため、この対話が十分に出来る期間を設定して事業承継を進める必要があります。

[ステップ3:社内外に周知する]

事業承継は、現経営者と後継者だけが認識していればいいものではありません。その企業の活動を支える取引先・金融機関・自社株式を所有する親族・従業員などへしかるべきタイミングで周知しないと事業承継後のトラブルリスクが出てきます。

[ステップ4:経営権の承継を行う]

ステップ1~3を経て、現経営者が代表取締役を辞任し、それと同時に後継者が新経営者に就任するための会社法上の手続きを行います。

1-2.事業承継の仕組み2:資産の承継とは?

後継者を選んだ後には、資産の承継も併行して進めます。対象となるのは、自社株式や現経営者が事業用に提供している個人所有の土地などです。「どんな資産を、いつどのように承継するか」を事業承継計画にまとめ、それを実行していきます。

[ポイント1:事業承継計画の策定]

中小企業庁の『事業承継ガイドライン』では、会社の中長期の方向性・目標を整理し、それを踏まえた上で事業承継計画を策定することを推奨しています。事業承継計画の構成要素例としては次の内容を挙げています。

・自社の現状分析
・今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
・事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討
・具体的な目標の設定
・円滑な事業承継に向けた課題の整理

[ポイント2:自社株式の権利移転]

資産の承継のメインテーマともいえる重要な部分です。法人であれば前出の「経営権の承継」と併行して、自社株式の移転による「所有権の承継」を実行することで後継者が名実ともに経営者となります。子や孫などの近親者に承継する場合、後継者の自社株式の納税負担が重荷になるケースが多々あります。これを解決するには、優遇策を採用する、あるいは、自社株式の評価額を引き下げるといった対策が求められます。

ちなみに、中小企業経営者への「自社株式の評価額を算出したことがありますか?」の問いに対しては7割超が「算出したことがある」と回答しています。中小企業経営者にとってやはり自社株式の評価額はかなり気になるテーマのようです。
 
(出所) 中小企業庁「平成28年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査」報告書

[ポイント3:不動産の権利移転]

中小企業では、現経営者が個人所有している土地を事業用に提供しているケースもよくあります。近親者への事業承継の場合、「小規模宅地等の特例」を活用すると相続税が抑えやすくなります。

小規模宅地等の特例とは被相続人が住んでいた土地や事業に利用していた土地について、要件を満たす場合に相続における評価額を減額する制度です。

事業に利用していた土地についての評価減の特例(要件と減額割合)は下記表の通りとなります。
 
目的 減額割合 適用対象限度面積
特定事業用地(貸付事業以外) 80% 400㎡
特定同族会社事業用地 80% 400㎡
貸付事業用地 50% 200㎡

・特定事業用地
 被相続人が事業に利用していた土地に関しては400㎡までの評価が80%減額されます。
 相続人が相続税の申告期限まで事業を継続することが条件となります。

・特定同族会社事業用地
 被相続人の同族会社が事業に利用していた土地に関しては400㎡までの評価が80%減額されます。

・貸付事業用地
 不動産貸付業(アパート、マンションなど)に利用していた土地に関しては200㎡までの評価の50%が減額されます。

1-3.事業承継の仕組み3:知的資産の承継とは?

知的資産とは、その会社の目に見えない資産のことです。その内容は多岐にわたり、業界の専門知識、自社独自の経営手法やノウハウ、経営理念、経営者の想いなどがあります。

これらを効率的に伝えていくには、「社外教育」と「社内教育」を組み合わせるのが有効と考えられます。

[社外教育による知的資産の承継]

中小企業庁の『事業承継ガイドライン』では、社外教育の具体的な方法として「他社で勤務経験を積むこと」「体系的な教育を受けること」を挙げています。

「他社で勤務経験を積むこと」では、同業他社や取引先に勤務することでその業界特有の知識を吸収でき、自社を客観的に見られる視点を獲得することも可能となります。

また、「体系的な教育を受けること」では、経営者向けセミナーなどに参加することで、経営の原則を身につけることが期待できます。

[社内教育による知的資産の承継]

後継者は会社全体を俯瞰する能力とともに、現場の知見やその会社独自のノウハウなどを熟知する必要があります。加えて、経営手法や経営者としての心構え、経営理念の深い理解なども求められます。

これらを学ぶには、様々な部署を経験するジョブローテーションや経営者に近い経営企画などの部署で経験を積むといった方法があります。 

2.事業承継の3つの選択肢:親族内承継・親族外承継・外部承継

(画像=stockfour/Shutterstock.com)
事業承継と一口にいっても、次の3つの選択肢があります。

・親族内承継(子・孫・配偶者など)
・親族外承継(役員・従業員など)
・外部承継(M&A含む)

ちなみに、「後継者をすでに決めている」という中小企業経営者へのアンケートでは、子や孫などを後継者とする「親族内承継」を検討しているケースが半分以上を占めています。
 
(出所) 中小企業庁「平成28年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査」報告書
さきほど挙げた3つの事業承継の形態のうち、どれを選ぶかでメリット・デメリットが大きく変わってきます。それぞれの内容をチェックしてみましょう。

2-1.選択1:親族内承継

親族内承継とは、子・孫・配偶者などの近親者に承継することです。日本の事業承継では、もっともスタンダードな選択です。

[親族内承継のメリット]

・金融機関、取引先、従業員などの理解を得やすい
・自社株式を引き継ぐのが比較的スムーズ
・企業の所有と経営が分離しにくく安定経営がしやすい
・子への承継であれば、借入金の個人保証を変更しやすい

[親族内承継のデメリット]

・経営者の資質のない人が承継すると会社が衰退する
・親族間の対立を招くこともある

[親族内承継のポイント]

親族内承継における資産の承継では、現経営者が亡くなってから資産を委譲する「相続による承継」と、経営者が生前のうちに自社株式などを移す「生前贈与による承継」があります。後継者や周囲への負担が少なく、トラブルリスクが少ないのは後者です。

2-2.選択2:親族外承継

親族の後継者候補がいない場合や、子に経営者の資質がない場合などに選択されます。一般的な親族外承継では、自社の従業員や役員に事業承継をするケースが多いです。

[親族外承継のメリット]

・選択肢が広がる分、適性のある人物を選びやすい
・会社の事業を理解しているため後継者教育の手間を軽減できる
・従業員や取引先の理解を得やすい

[親族外承継のデメリット]

・自社株式の購入費用など資金不足が問題になりやすい
・借入金の個人保証を変更しにくい

[親族外承継のポイント]

デメリットにもあるように「自社株式の取得費用をどうするか」が、親族外承継の一番のポイントになります。取得費用が不足している場合は、現経営者が大株主のまま事業承継を進める、あるいは、種類株式を活用するといった方法も考えられます。
 

2-3.選択3:外部承継(M&A)

親族や従業員以外の外部の人に承継する方法もあります。具体的には、M&A(合併と買収)を含む次の4つの選択肢が考えられます。

・取引先から人材を招く
・金融機関から適切な人材の紹介を受ける
・同業者に売却する
・事業を求める企業に売却する

近年、M&A型の事業承継も急増していて、人口減少が進む中、将来的にさらに有力な手段になることが見込まれます。
 
(出所) レフコデータ

[外部承継のメリット]

・取引先から人材を招く場合、取引先との関係を維持しやすい
・金融機関から紹介を受ける場合、金融機関との関係を維持しやすい
・他企業へ売却の場合、相乗効果で発展することもある

[外部承継のデメリット]

・従業員の反発を招くケースもある
・社風や企業理念をおろそかにされるリスクがある
・従業員がリストラされるリスクがある

[外部承継のポイント]

外部承継にはさまざまなケースがあるため、専門家や関係企業と連携して進めることが重要になってきます。とくにM&Aの場合は、慎重に進めていかなければなりません。まずは、企業の価値をしっかり調査・評価して適切な売却額を設定することが重要です。合わせて、交渉段階でM&Aをしていることが外部に漏れると、取引先や従業員の不審を招くリスクもあります。秘密保持契約を結んで情報管理をしていくことも大切になってきます。

3.事業承継で発生する税金:所得税・贈与税・相続税

(画像=create jobs 51/Shutterstock.com)
事業承継を進めるには、仕組みや選択肢に加えて税金の理解も必須です。現経営者から後継者に自社株式や不動産の権利を移す方法により、次の3つの税金が発生します。
 
権利を移す方法 発生する税金
売  買 所得税
生前贈与 贈与税
相  続 相続税

上記のうち、どの選択をしても税金が発生します。そのため、経営者・後継者および、税理士などの専門家が一体となって、税金の負担を抑えながら事業承継を進めていくことが大事になってきます。また、選択した方法によって、税金を払うのが現経営者側なのか、後継者側なのかが変わってきます。この部分をしっかり理解しましょう。

3-1.売買の場合:払う税金は所得税、負担するのは現経営者側

自社株式や不動産などの資産を売却して事業承継を進める場合、もともとの金額と売却額の間に差益が出た場合は現経営者側にその分の所得税が発生します。逆に、差損の場合は所得税がかかりません。

3-2.生前贈与の場合:払う税金は贈与税、負担するのは後継者側

経営者が存命のうちに、贈与によって後継者が資産を取得した場合は「後継者側」に贈与税がかかります。これを抑えるには、年間110万円までの贈与が基礎控除となる「暦年課税贈与」または、累積で2500万円までの贈与が特別控除となる「相続時精算課税贈与」の活用が有効です。

3-3.相続の場合:払う税金は相続税、負担するのは後継者側

上記については、「贈与税」ではなく「相続税」ではないでしょうか?
経営者が亡くなってから、相続によって後継者が資産を取得した場合は「後継者側」に相続税がかかります。

4.事業承継で後継者の負担を減らすための優遇策

(画像=Jacob Lund/Shutterstock.com)
事業承継に関わる税金は、企業価値が高くなるほど負担額も増えます。一般的には、黒字経営を永年続けてきた企業などは自社株式の評価額が高くなりがちです。この分の税金が事業承継のネックにならないよう「非上場株式の納税猶予」という制度があります。その内容をくわしく見ていきましょう。

4-1.非上場株式の納税猶予(一般措置)の概要

もともと、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予の制度があり、その主な要件は次の通りでした。

[申告期限後5年間の主な要件]

・後継者が会社の代表者であること
・雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
・後継者が筆頭株主であること
・上場会社や風俗営業会社に該当しないこと
・猶予対象株式を継続保有していること
・資産管理会社に該当しないこと

上記の要件が満たせなかった場合、納税猶予額は全額納付となります。

[申告期限後5年経過後の主な要件]

・猶予対象株式を継続保有していること(譲渡した場合、その割合分の税金を納付)
・資産管理会社に該当しないこと (該当する場合、全額納付)

(出所)中小企業庁「事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度」

4-2.非上場株式の納税猶予(特例措置)の概要

上記の一般措置を拡充し、より後継者の負担を減らすために、2018年4月1日から10年間の特例措置が創設されています。その主な内容は次の通りです。※法人の場合
 
税制 相続税・贈与税の納税猶予制度
期間 2018年4月1日から10年間
猶予割合 100%
※一般措置では後継者が取得した株式の80%が対象でした(相続税)
対象資産 非上場株式
主な内容 ・5年平均8割の雇用維持が未達成でも猶予可能
・最大3名の後継者への承継も対象 など

(出所)「中小企業白書2019」

4-3.その他の施策

事業承継における現経営者・後継者の負担を緩和するため、次の施策も実施されています。

・信用保証枠の拡大や日本政策金融公庫の貸し付け利用メニュー
・外部承継のマッチングを行う「事業引継ぎ支援センター」を全都道府県に設置
・事業承継を機に成長を目指す中小企業へ補助金

5.まとめ-事業承継は最重要なタスクだけに後回しは厳禁

(画像=Monster Ztudio/Shutterstock.com)
ここで解説してきたことを振り返ってみましょう。1つ目のテーマ「事業承継の仕組み」では、経営権・資産・知的資産の3つを併行しながら後継者に承継していく必要があるとお話ししました。このうち、一部が不足していると、承継後のトラブルや企業衰退リスクが出てきます。

2つ目のテーマは「企業承継の選択肢」についてでした。親族内承継・親族外承継・外部承継、それぞれのメリット・デメリットを理解して進めることが大切です。

3つ目のテーマは「承継時に発生する税金とその優遇策」についてでした。日本の事業承継でもっとも割合の多い「親族内承継」では、後継者の自社株式取得の資金不足・税金負担が大きな壁になるケースが目立ちます。これを緩和するための優遇策を紹介しました。

このように事業承継の全体像を見渡してみると、タスクの多さがよくわかります。現経営者にとって日々の業務と併行しながら進めることは負担ですが、タスクが多いからこそ早めの着手が大切です。事業承継は、会社の存続・発展のために最重要なタスクで、後回しは厳禁ですので、優先順位を最上位に位置づけ、顧問税理士や承継の専門家のサポートを受けながら着実に進めていきましょう。

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