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経営者の関心事
2020.7.9

海外不動産運用の税制が大幅変更 2020年度税制改正で海外不動産減価償却スキームが否定

(画像=supawat bursuk/Shutterstock.com)
(画像=supawat bursuk/Shutterstock.com)
「令和2年度税制改正大綱」が2020年1月20日から始まった通常国会で可決・成立し、2020年4月1日から施行されました。

この中で、海外不動産運用の所得に関する損益通算についての制度変更があります。これによって、一部富裕層に重宝されていた「海外不動産を利用しての所得税負担を軽減する仕組み」の効果がなくなりました。海外不動産のタックスメリットを封じ込めるような改正といえる内容を詳しく見ていきます。

1.何が改正されたのか

(画像=ijeab/stock.adobe.com)
はじめに、今回の税制改正によって改正された点を確認していきましょう。

1-1.損益通算が認められなくなる

次の税制改正大綱の「3.租税特別措置等」において、以下の条文が入ることとなりました。

「個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。」

参照:財務省「令和2年度税制改正の大綱

つまり、海外不動産運用の所得計算において、収支が赤字の場合、減価償却費を損失として計上することは認めないということです。裏を返すと、これまでは認められてきたわけですが、この「海外不動産運用の減価償却」がなぜそんなに重要だったのでしょうか。

1-2.ポイントは簡便法による減価償却ができなくなること

不動産所得の計算をするにあたって、減価償却は大きなパートを占めます。その物件が法定耐用年数内であるならば、その年数に応じた償却率に基づいて計算します。物件(建物部分)の取得価格×償却率がその年の減価償却費です。これは「定額法」と呼ばれ、2016年4月1日以降取得した不動産はすべてこの方式が採用されます。償却率は、国税庁の「減価償却資産の償却率表」にて定められています。

問題は耐用年数を超えた築古の不動産建物のケースで、「簡便法」と呼ばれる計算方法があります。計算式は以下の通りです。

耐用年数=法定耐用年数×0.2

例えば、築25年の木造建物(法廷耐用年数22年)の場合、22×0.2=4.4となり、小数点以下は切り捨てとなりますので、耐用年数4年と計算されます。つまり、不動産の取得価格(建物部分)の1/4を4年間に渡り毎年減価償却費として計上できるわけです。

では、今回の改正で減価償却費の計上メリットがどのように変わるのでしょうか。具体例で見てみましょう。これまでは、上記の築25年の木造建物を6,000万円で購入した場合、簡便法により耐用年数は4年です。6,000万円÷4で毎年1,500万円ずつ減価償却費として計上できました。仮に年間の家賃収入が400万円だとすると、1,100万円の赤字となり、これを給与所得と損益通算して所得税を軽減できたのです。

しかし、改正により減価償却費を計上して損益通算することが認められなくなったため、上記の例では400万円+給与所得すべてに所得税が課税されることになります。まさに、海外不動産の減価償却を使って所得税の軽減を図ってきた投資家にとっては手痛い改正になったのです。

2.なぜ海外不動産が問題になるのか 3つのポイント

(画像=sasinparaksa/stock.adobe.com)
それでは、なぜ海外不動産が問題となるのでしょうか。以下の3つのポイントが考えられます。

2-1.アメリカでは築古・木造物件でも売買される【ポイント①】

前章まで減価償却費の計算方法を見てきましたが、日本では耐用年数を超えた建物の価値は非常に低くなる傾向にあります。土地部分は減価償却できませんので、不動産価格のほとんどが土地部分となると減価償却のメリットが生かせません。国内で不動産を運用する場合、この仕組みはあまりインパクトがありませんでした。

その点、アメリカの物件は住宅価格に占める建物の割合が多いため、多くの減価償却費を計上することができます。しかも中古物件の取引が大半を占め、持続的な経済成長を背景に需要が多いことから、築古物件(日本では不動産価格が急激に下がる築20年以上が目安ですが、アメリカでは築年数は重視しない傾向がある)でも資産価値が保たれるメリットがあります。日本人の富裕層は、この特徴を利用して海外の住宅を購入し、多くの減価償却費を計上することによって損益通算でタックスメリットを受けるという方法を行ってきたのです。

2-2.築22年以上の木造物件のニーズが高い【ポイント②】

とくにアメリカでは中古の木造物件が非常に多く流通しており、築22年オーバーの物件も普通に売買されています。簡便法における減価償却には築22年オーバーの中古木造物件が最も有利といわれていますので、アメリカの不動産は最適なのです。

日本では築浅物件(不動産サイト「リビンマッチ」のアンケート調査によると5年未満という認識が最も多い)が好まれ、築22年以上も経った賃貸物件は入居者が付きにくいというデメリットがありますが、アメリカでは容易に入居者が付くため、古いことはあまり問題になりません。建物部分の価値も残存するばかりか、物件によっては「ヴィンテージハウス」として価値が上昇するケースもあります。

2-3.アメリカでは土地よりも建物の価値が高い【ポイント③】

具体例を考えてみましょう。土地2,000万円、建物8,000万円、合計1億円の築30年木造住宅があったとします。簡便法により、8,000万円÷4で2,000万円の減価償却を4年間毎年計上できることになります。現実にはありえないケースですが、仮に賃料収入が0だとするとこの2,000万円を国内の所得と損益通算することで、課税所得が2,000万円下がることになります。

また、売却という「出口戦略」も描きやすいです。以上の仕組みによって、一部富裕層の間でブームになったわけです。

この「海外不動産スキーム」は、日本の減価償却計算方法と海外(主にアメリカ)の不動産事情とが奇妙にマッチした「数字のマジック」と呼べるものでした。この仕組みに対しては、従来から「税金逃れだ」「不公平だ」という声があったのは事実です。それを受けて、結局税務当局は2020年度税制改正で海外不動産スキームを否定することとなったのです。

>>【関連記事】CRE戦略において減価償却を活用する方法とは

3.税制改正で考えられる4つの対応策

(画像=monster-ztudio/stock.adobe.com)
海外不動産の中にはハワイのように日本人が多く不動産を保有している地域もあります。したがって、今回の税制改正で影響を受ける人は決して少なくないでしょう。何らかの対応策を考えなくてはなりません。考えられる対応策には、以下の4つがあります。

3-1.2020年の1年間は継続してタックスメリットを受ける

まず1つ目は2020年の1年間は海外不動産の保有を続け、タックスメリットを受ける方法です。新設された「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」は2021(令和3)年分の所得税(2022年3月15日提出期限)から適用されますので、2020年分に関しては継続してタックスメリットを受けられます。

ただし、海外不動産のタックスメリットが少なくなれば、ハワイなどへの不動産投資が減る可能性もあります。そのために1年間保有を続けるうちに、物件の価格が下落すれば出口戦略(売却)で多額のキャピタルロスが生じることもあり得ます。不動産市況を注視し、下落の傾向が顕著であればタックスメリットにこだわらず、早めに行動を起こすことも大事です。

3-2.法人になって法人税のタックスメリットを受ける

2つ目は法人になって法人税のタックスメリットを受ける方法があります。ポイントは、今回の改正が所得税の損益通算に関わるものであるため、法人名義の保有には関係ないという点です。法人の場合は、簡便法の中古耐用年数による償却が可能ですので、目的を「所得税の税負担軽減」から「法人税の税負担軽減」に切り替えて保有するという方法があるのです。

個人で高額所得者の場合は、税負担軽減効果と物件の値上がり益・値下がり損のバランスを考えて判断する必要があります。税負担軽減効果を上回る売却益が見込めるのであれば、出口戦略を考えるのもよいでしょう。値下がりした場合は、下記3-3にある譲渡益軽減メリットを使うことも有効な選択肢です。

3-3.譲渡益の軽減するメリットを受ける

3つ目は譲渡益を軽減するメリットを受ける方法です。税制改正大綱では、令和3年度から減価償却費を経費にできなかった海外不動産を売却した場合、譲渡益から減価償却費相当額を控除できることになりました。

譲渡益が少なくなることで税負担が軽減されるのは大きなメリットです。出口戦略を重視する投資家であれば活用するのも有効な選択肢になるでしょう。

3-4.複数の海外不動産で内部通算

そして4つ目は複数の海外不動産で内部通算する方法です。損益通算の規制対象は「国外不動産所得の損失の金額」と定められています。したがって、海外不動産がからむ内部通算では以下のように対応が異なります。

【例1】国内不動産と海外不動産のケース(建物価格8,800万円÷4=減価償却費相当額2,200万円の場合)

国内不動産A 所得金額1,000万円
海外不動産B 損失金額 1,200万円(減価償却費相当額2,200万円)

海外不動産Bの損失がなかったことにされるため、内部通算はできず所得金額は1,000万円となります。

【例2】海外不動産同士のケース(同)

海外不動産A 所得金額1,000万円
海外不動産B 損失金額 1,200万円(減価償却費相当額2,200万円)

海外不動産同士は内部通算できるため、所得金額は0円となります。

いずれにしても、海外不動産については、所得税・法人税・相続税と多岐にわたり、今まで以上に高度なアドバイスを受ける必要が生じてきました。正確な申告に不安があるのであれば、海外不動産の税務に詳しい専門家に相談するのが最善かもしれません。

4.まとめ

ここまで海外不動産運用に関する税制改正の影響と、対応策について見てきました。注意しなければいけないポイントを以下の5つにまとめておきましょう。

【ポイント①】
開始は2021(令和3)年以降の確定申告からとなりますので、2020(令和2)年までは従来スキームを使用することは可能です。

【ポイント②】
築22年以上の木造住宅では減価償却の法定耐用年数22年が簡便法によってわずか4年になり、耐用年数内の物件に比べて著しい不公平が生じるため、「税逃れ」との批判がありました。この簡便法という評価方法が問題になり、海外不動産減価償却スキームの否定につながったのです。この背景を知った上で税制改正への対応策を考えることが大事です。

【ポイント③】③国内不動産と海外不動産は内部通算できませんが、海外不動産同士は内部通算できます。複数の海外物件を持てば引き続きタックスメリットを受けられますので、逆に海外物件を買い増すのも1つの方法です。

【ポイント④】
海外不動産を売却する場合は減価償却費相当額を控除できるので、賃貸物件として保有するだけではなく売却も選択肢の1つになります。

【ポイント⑤】
個人の所得税の問題なので、法人が保有する不動産については影響ありません。ただし、個人から法人へ不動産を譲渡する場合、その該当国の法令によっては金銭的・人的コストがかかるケースがあります。

もしこのスキームをすでに運用されている方、これから運用しようと考えている方は、専門の税理士、会計士、不動産会社によく相談して対策を立てることをおすすめします。

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