経営者の関心事
2019.11.25

米国が株主至上主義から脱却 日本企業はどこを目指すべきか

(画像=vichie81/Shutterstock.com)
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米国大手企業の経営者が所属する経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は2019年8月19日、「すべてのアメリカ人に貢献する経済を目指す」とする声明を発表しました。この声明には「アップル」「アマゾン」「JPモルガン・チェース」「ジョンソン・アンド・ジョンソン」など米国を代表する企業181社のCEOが署名しています。

声明では「企業の目的を再定義する」と宣言し、大株主優先の原則を改め、投資家、従業員、取引先、地域社会、顧客といったすべての利害関係者に貢献することによって、長期的な企業価値向上を目指すとしています。この宣言は、大きな驚きを持って迎えられました。なぜならビジネス・ラウンドテーブルは1997年以来、「企業は株主の利益最大化のために存在する」という基本原則を謳っていたからです。長らく準拠してきた「株主至上主義」から大きく舵取りを変えるもので非常に象徴的な出来事といえるでしょう。

米国の路線変更の背景には何があるのか?

米国経済界の路線変更には、どのような背景があるのでしょうか。

1つ目には、株主至上主義が短期的利益主義(四半期決算の業績を釣り上げることを経営目標にすること)に結び付き、ひいてはそれがリーマンショックのような世界的経済破綻を招いたことがあります。

2つ目には、米国内の深刻な貧富の格差が社会不安を呼んでいることに対する内省があるでしょう。米国における富裕層(経営者)と一般従業員との報酬格差は、年々拡大しています。米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)が2018年5月22日に公表した調査によるとS&P500を構成する企業のCEOの報酬(中央値)は2017年1,394万米ドル(約15億3,900万円)、生産部門の一般従業員の年収(同)は3万8,613米ドル(約425万円)でした。その差は約361倍に上っています。

3つ目には、若者を中心に価値観が変容していることが指摘されています。ハーバード大学が2016年に行った若者に対しての世論調査(対象は18~29歳)によると、51%が「資本主義を支持しない」と回答し、「支持する」と回答した42%を9ポイントも上回りました。声明の中で、JPモルガン・チェースのCEO・ジェイミー・ダイモン氏が「アメリカン・ドリームは生きているが、すり減ってきている」と述べているのは、米国の資本主義がかつてのように若者に夢を与えられていないことを踏まえての発言でしょう。

米国流コーポレート・ガバナンスの真意とは

「利害関係者=ステークホルダー」を重視する資本主義というのは、日本に定着している経営思想そのものといっていいでしょう。そのことを踏まえて日本の経済界の一部にはこうした米国の変化を歓迎する声も上がっています。しかし話はそこまで単純なものではありません。そもそも株主至上主義は全面的に却下すべきものなのかどうかも吟味する必要があります。

「株主ファースト」はコーポレート・ガバナンス(企業統治)の議論といえますが、行われるようになったのは米国の1980年代からです。株式会社においては企業の経営と所有が分離し、1970年代までの米国では専門的経営者が企業を牛耳る状況でした。そんな中、1970年のペン・セントラル鉄道経営破綻、1973年のウォーターゲート事件関連で暴かれた企業の不正献金などにより、企業活動監視の必要性が強く意識されるようになったのです。

そこで主張されたのが、企業の所有者である株主によるガバナンスの重要性です。透明性の高い証券市場(株価の公正な形成)、企業情報の投資家への開示、経営者の暴走を監視する社外取締役が多数派の取締役会、会計帳簿を公正かつ厳正にチェックする監査法人の設置などが強調されました。これらを踏まえると株主至上主義(米国流の企業統治)は、企業活動の透明性・公正性を目指したものだったといえます。

日本の企業活動の透明化・公正化への取り組みのために

一方、日本ではこうした企業活動の透明化を図る施策がどこまで採用されているでしょうか。東証1部上場企業で取締役会に占める社外取締役の比率が過半数の企業数は、2019年段階で全体のわずか6.6%に過ぎません。

今後はCSR(企業の社会的責任)の推進とともに、CSRとコーポレート・ガバナンス(企業統治)を別々の問題と捉えるのではなく、共通の問題式のもと、企業経営全体のバランスを見て統治しなければなりません。企業活動の透明化・公正化は、これからも日本企業にとって課題であり続けるでしょう。

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